番外編──宝物──

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 朝、幸一は出勤すると、同じく出勤してきた槇とナースステーションで顔を合わせた。 「あ、今日から?」 「はい。休みありがとうございました」 「いえいえ。お疲れ」  ぽん、と軽く肩を叩かれた。  今日の受け持ち患者を確認して、デスクトップパソコンの前に座る。電子カルテで今日の検査や処置などの確認、情報収集をするためだ。パソコンで病床マップを見る。  祖母のいた個室には、すでに別の患者の名前がある。少し、目の奥が熱くなった。  三日ぶりの出勤だった。祖母の葬式のために休みをもらっていたから。 先程の槇は祖母を受け持つことも多く、とても世話になった。祖母の主治医、担当医として診てくれた沢木先生や新井先生にも、あとで礼をしなければと思いながらパソコンの画面を見る。 「あ、そういえばカッキーさん」  不意に、向かいのパソコンで情報収集をしていた槇がひょこっと顔を出した。 「聡子さんの忘れ物があって」  聡子というのは、幸一の祖母のことだ。 「忘れ物?」 「そう。棚の一番上の奥」 「あ、退院の時そこまで見なかったかも」 「えーっとね、カウンターの下に置いといたんだよね」  槇はナースステーションのカウンターの下の引き出しから、片手よりも一回り大きいくらいの長方形の箱を取り出した。貼ってある和紙は黄色みがかっていて、如何にも年期が入っているという印象を受ける。幸一は礼を言って受け取った。
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