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翌日母に電話すると、ああその箱のことだったのねと言われた。何のことかと聞いてみれば、先日、祖母の持ち物の中にそのようなものがなかったか、和人に聞かれたのだと言う。
「なんで和人が?」
「お母さん、私や幸一じゃなくて和人君と何か企んでばかりだったものね。また何か約束でもしてたんじゃないかしら?」
「じゃあ俺が持ってるって和人に言っておいて」
「自分でメールか電話くらいしなさいよ。あなたたち付き合ってるんでしょう?」
「……母さんにそういうこと言われるとなんかすごくいたたまれない気持ちになんだけど」
「あらやだ。男のくせに。そんなんだったら和人君に愛想尽かされちゃうわよ」
母親のさっぱりとした性格は今に始まったことではないが、息子が男と付き合っていることも受け入れる懐の深さには、感服するしかない。
たった数日前、幸一と和人のことを知り、母親も亡くなり、彼女にとっては大きく揺らぐようなことばかりだったはずなのに。
そうだ。そういう人だからこそ、自分は母が言った「医者にはならないで」という願いを叶えようと思ったのだ。それが長年の夢であっても、諦めようと思ったのだ。
「幸一? 聞いてるの?」
「聞いてる聞いてる。和人にはメール入れとく」
そうは答えたが、和人は受験生で夏期講習がある。祖母のためにこの数日休ませてしまったから、和人から何も言われなければ、この話は次に会う時までしないでおこうと思った。
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