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◇
「明後日から一日泊まりに行ってもいい?」
和人から電話があったのは夏休みも終わりが見えてきた頃だった。
「いいけど……お前、勉強は?」
「一日くらい大丈夫だよ。その分ここまで全然コウのところ行かないで我慢してきたんだからさ」
よく我慢していたと思う。これまでの和人を思えば、せっかく付き合うようになったというのに電話もメールも最小限、会うこともなく過ごすというのは奇跡だと思えた。
「その一日が命取りになるかもしんねえぞ」
「だったら一日分寝ないで勉強するし」
「やめろ身体壊すぞ」
「コウは俺に会いたくないわけ? だいたい、俺は受験生だからコウが会いにきてくれるって言ってたくせに。ちっとも帰ってこなかったじゃん」
あ、怒った。
拗ねているような声を出す。子どもっぽい反応に思わず笑ってしまう。
「ごめんごめん。会いたい会いたい」
「え、何その心こもってない言い方」
さすがに可哀想かなと思った。ここまで頑張ってきたのは本当で、幸一はその努力を尊敬すらしている。ふうっと一息吐いて、口にする。
「……会いたいよ。好きなんだから」
沈黙。
時計の秒針の音が耳についた。
どうせ感激のあまり声が出なかったとか、そんなところだろう。和人の、幸一の言動に対する大げさ過ぎる反応にも少し慣れてきた。
「俺は、愛してる」
和人はそれだけ言って電話を切った。
愛してる。
愛してるだって。
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