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「……っ」
言われたことを理解して、幸一の顔は瞬時に赤くなる。そんな自分が恥ずかしくて、洗面所に行き冷たい水で顔を洗った。
愛してるなんて、長年付き合っていた翠にも言われたことがなかった。それはお互い、そういうことを言うのに恥ずかしさが上回って躊躇っていたからだ。それを、和人は恥ずかしげもなく言い切った。
タオルでごしごしと顔を拭いて、先程の言葉を反芻する。
〝愛してる〟
口元が緩むのが止められなくて、幸一は再び冷たい水に顔をつけた。
◇
玄関できちんと靴を並べて、和人は「お邪魔します」と言って部屋に上がってきた。
和人がいつも使っている部屋に、荷物を置きに行く。鞄はとても重そうだった。恐らく、参考書や問題集などの勉強道具が入っているのだろう。明日は、ここから続けて塾に行って帰ると言っていたから。
「そこまで無理して来なくてもいいんじゃねえの?」
和人が無理をしているのではないかと思って口を突いて出た言葉だが、我ながら可愛げがないと思った。
「俺が好きだから会いたいって言ったよな? コウ」
「……はい言いました」
「じゃあもうこの件でとやかく言うな」
「はい」
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