第一章

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 スーパーで酒を見ながら和人を待つ。年始だというのに、客は意外に多かった。これから初詣に行くのか、艶やかな着物を着た学生の姿もあった。 「幸一君」  肩を叩かれて振り返る。 「和人……?」 「そうだよー。幸一君、久しぶり」    語尾にハートマークでも付いていそうな甘い声。くっきりとした二重に、すっと通った鼻筋。形の良い薄い唇。甘く目を細める顔は、まるで人気のイケメン若手俳優のようだ。元々可愛らしい顔立ちをしていた和人は、すっかり青年の顔になっていた。  しかし。 「なんつーか……ちゃらくなったな……」 「そう?」 「その頭すげえな」  なんと金髪である。学校はあれで校則違反にならないのかと、幸一の方が心配になってしまう。和人は確かそこそこの名門校に通っていると母が言っていたような気がするのだが。 「綺麗な色でしょ?」 「まあな。高校それ大丈夫なんかよ?」 「あー、俺学校行ってないから」  聞いてはいけないことだったのかもしれない。  幸一が気まずくなって黙ると、和人は笑って幸一が持っていた買い物かごを持った。 「別に気にしないよ。それより早く買い物済ませて家来てよ。昨日親戚が蟹持ってきてくれたんだけど、早く帰んないと父さんに全部食べられちゃうよ」  笑顔がまた爽やかで、とても何か深刻な理由があって不登校になっているようには見えなかった。外見は派手になっているが、笑うと目尻が下がって優しそうな印象を与えるところは、変わっていなかった。  和人が鍵を忘れたものだから、インターホンを鳴らす。懐かしい和人の母親の声がした。 「いらっしゃい、幸一君。お正月早々夜勤だったんでしょう? お疲れ様」  玄関まで出迎えに来てビールやジュースが入ったレジ袋を受け取ってくれようとするが、重いからと言ってそのままキッチンまで運んだ。
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