第一章

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 和人の母親は、和人とはあまり似ていない。和人は父親似だからだ。しかし優しげな目元は、おばさんそっくりだと思った。 「お久しぶりです。あけましておめでとうございます」  飲み物を冷蔵庫にしまうのを手伝ってから改めて幸一が頭を下げると、和人の母はくすっと笑った。 「ふふ、幸一君は相変わらずしっかりしてるわね。眠くない? お布団用意してあるから、少し休んだらどうかしら?」 「大丈夫ですよ。家で少し寝てきましたから。だから昼過ぎになっちゃったんですけど」 「幸一君の病院は大きい病院だから、お正月も忙しいって聞いたわよ? 無理しないでね」  小さい頃から幸一のことを知っている和人の母は、まるで我が子のように幸一の心配をしてくれる。幸一の母親は同職なこともあって厳しいことを言うから、こうして優しく労られると少々照れくさい。 「あ、それより、和人が学校に行ってないってさっき言ってたんですけど」 「そうなのよ。幸一君がこんなにしっかりしているのに、うちの子ときたら……」  和人の母は片手を頬にあてて溜息を吐き、困ったように眉を下げた。ビールを父親に渡している和人を、二人でキッチンから覗き見た。 「あいつどうしたんですか?」 「わからないのよ。反抗期なのかしら? それにしては別に変わらず私たちには優しいのよね。でも学校も十二月に入ってから急に行かなくなっちゃって。一週間前にはあんな頭にしちゃうし……」 「どうしたの? 突っ立ってないで座んなよ。蟹食べよ、蟹」  視線を感じたらしい和人がキッチンまで声をかけにきた。母の心配など想像もしていないかのような楽しげな声に、幸一は思わず和人を睨む。  誰の話をしていたと思ってるんだ、誰の。背が自分より高くなっていることも気にくわなかった。
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