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仕事の話になってすっかり黙ってしまっていた和人は、急に話を振られて、口を付けようとしていたウーロン茶のグラスをテーブルに降ろした。
「父さんは和人の将来が心配だよ」
和人の父は大袈裟に泣く仕草をした。
おじさんは昔から明るい人だけど、和人の不登校までもこんなに明るく話すとは思わなかった。酔っ払っている所為もあるが。
「まあ、留年しない程度にしとくからさ」
なんだ、それ。
「和人君学校で何かあったのかい?」
「別に、ですよ。何もないです。ただ何となく学校面倒くさいなあって」
何となく? 面倒くさい?
「私立で授業料も高いっていうのにこの子は……」
和人の父がまたおよよと泣いた。
幸一の胸の中でもやもやと重苦しい気持ちが渦を巻きだす。
和人、面倒だからって学校休むような奴になったのか? 誰だって学校は多少面倒だけどさ。でも、おばさんだって心配しているのに。おじさんだって軽い言い方をしているけど、絶対心配している。それがなんだって? 何となく?
「和人!」
叫んで立ち上がる。和人は驚いて背筋を伸ばした。
「は!? 何、幸一君!?」
気に入らない。自分が知っている和人は、誠実で親思いで、ついでに幸一の両親まで大切にして、勉強熱心で努力家で、いくつも自分の方が年上だが、それでも尊敬せずにはいられないような、そんな人間だったのに。それがこうも変わってしまっているのが、気に入らない。
「てめえ、いつからそんなふざけた奴になったんだ」
「こ、幸一君? かなり酔ってるだろ?」
和人の引き攣る顔にかまいもせず、幸一は向かいに座っていた和人の方へ回り込み、胸倉を掴んだ。
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