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◇
一月も終わりに差し掛かり正月ぶりに実家に電話すると、母から思わぬことを聞いた。
「和人君、学校行ってないのよ。亜紀さんもすごく心配しているの。幸一、お正月に会った時和人君何か言ってなかった?」
亜紀さんというのは和人の母親のことだ。
「三学期からは行くって、俺には言ったけど」
「そう……。心配よね。四月からは受験生になるのに。幸一、次の休みにこっちに来て和人君に話を聞いてみてくれない?」
「なんで俺が。和人とはこの前までずっと会ってなかったんだ。俺なんかより、身近な友達の方が相談しやすいんじゃないの?」
心配にならないわけじゃないけど、何年も会ってなかった自分に和人が悩みを話すとは思えなかった。
「でもほら、和人君、小さい時から幸一に懐いてたじゃない? 亜紀さんが言うには、幸一にだったら理由を話せるみたいなことを言っているらしいの」
意味がわからない。なんで四年も会っていなかった俺に?
「幸一だってこの前心配して怒ってたじゃない」
「あれは酔っ払ってただけ……」
恥ずかしい。和人の両親も見ている前で和人の胸倉掴んで怒鳴って、どう考えても頭がおかしいのは自分の方だったと反省している。
「翠ちゃんとも別れちゃって、休みの日は暇でしょ?」
「……そういうこと息子に言う? 普通」
「あらやだ。まだ気にしてるの?」
「まだって、まだ翠と別れて一カ月なんだけど」
翠と言うのは、幸一と五年も付き合っていた彼女のことだ。お互いの家族に挨拶までして同棲していたのに、一カ月前に別れた。結婚すると思っていたくらいだから、自分より親の方が気にしているんじゃないかと思ったのに、母親の方が案外気にしていなかったのかと、幸一はほっとするような情けないような気持ちになった。
「まあそれはいいから、幸一は次いつ休みなの?」
「明日が夜勤入りで明後日が明け。その後二連休」
「じゃあ、ちょうどいいじゃない。電車で寝過ごしたりすると面倒だから、休みの日に来なさいよ」
半ば強引に決められ、幸一は再び実家に帰ることになった。
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