第一章

8/15

279人が本棚に入れています
本棚に追加
/196ページ
 ◇  一月も終わりに差し掛かり正月ぶりに実家に電話すると、母から思わぬことを聞いた。 「和人君、学校行ってないのよ。亜紀さんもすごく心配しているの。幸一、お正月に会った時和人君何か言ってなかった?」  亜紀さんというのは和人の母親のことだ。 「三学期からは行くって、俺には言ったけど」 「そう……。心配よね。四月からは受験生になるのに。幸一、次の休みにこっちに来て和人君に話を聞いてみてくれない?」 「なんで俺が。和人とはこの前までずっと会ってなかったんだ。俺なんかより、身近な友達の方が相談しやすいんじゃないの?」  心配にならないわけじゃないけど、何年も会ってなかった自分に和人が悩みを話すとは思えなかった。 「でもほら、和人君、小さい時から幸一に懐いてたじゃない? 亜紀さんが言うには、幸一にだったら理由を話せるみたいなことを言っているらしいの」  意味がわからない。なんで四年も会っていなかった俺に? 「幸一だってこの前心配して怒ってたじゃない」 「あれは酔っ払ってただけ……」  恥ずかしい。和人の両親も見ている前で和人の胸倉掴んで怒鳴って、どう考えても頭がおかしいのは自分の方だったと反省している。 「翠ちゃんとも別れちゃって、休みの日は暇でしょ?」 「……そういうこと息子に言う? 普通」 「あらやだ。まだ気にしてるの?」 「まだって、まだ翠と別れて一カ月なんだけど」  翠と言うのは、幸一と五年も付き合っていた彼女のことだ。お互いの家族に挨拶までして同棲していたのに、一カ月前に別れた。結婚すると思っていたくらいだから、自分より親の方が気にしているんじゃないかと思ったのに、母親の方が案外気にしていなかったのかと、幸一はほっとするような情けないような気持ちになった。 「まあそれはいいから、幸一は次いつ休みなの?」 「明日が夜勤入りで明後日が明け。その後二連休」 「じゃあ、ちょうどいいじゃない。電車で寝過ごしたりすると面倒だから、休みの日に来なさいよ」  半ば強引に決められ、幸一は再び実家に帰ることになった。
/196ページ

最初のコメントを投稿しよう!

279人が本棚に入れています
本棚に追加