第一章

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「それでどうしてこうなる」 「それはどっちかって言うと、俺が聞きたいかなあ」 「その語尾延ばすのやめろ」 「なんで?」  お前らしくないから、なんて中学の時の和人と比べるわけにもいかず、幸一は黙って顔を背けた。  実家に戻ると、すぐに和人の家に行くように言われた。  意味もわからず訪ねると、和人の母親に抱きつかれた。今まで親に心配をかけることも少なく、良くできた息子であった和人が不登校になって、不安はかなりのものだったらしい。幸一の母親は看護師だけあって肝っ玉が据わっているが、和人の母親は心配性で、小さい時から幸一は頼まれて和人の登下校に着いて行ったものだ。  正月の時には深刻そうな雰囲気はなかったが、三学期になっても学校に行かない和人に、不安になり始めたようだ。それもそうだろうと思う。十二月はテスト後の試験休みや冬休みなんかもあって、元々登校日が少なかったのだろうから。おじさんは楽観主義だし。おばさんが一人で不安になるのも無理ないと思う。  和人の家を訪ねれば、和人の母親は幸一に泊まることを勧め、幸一は断り切れずに和人の部屋で眠ることになった。客間があるのになぜ、と思ったが、多分おばさんはこうして枕を並べながら自分に和人の悩みを聞いてほしいとでも思ったのだろうと考える。  幸一は和人のベッドを貸してもらって、和人は床に布団を敷いている。逆で良いと言ったのに、「幸一君は仕事で疲れているんだから」と言って譲らなかった。  ……優しい奴なんだけどな。無駄におばさんに心配かける奴じゃない。多分そこは、変わっていない。おばさんに心配かけても譲れないくらい、何か重大な学校に行けない理由があるのだろうか。
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