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第1章 再会
5月に入ってからずいぶんと暖かくなり、日中の日差しは上着を着ていては軽く汗をかきそうなくらいだ。
高橋祐樹(たかはしゆうき)が外出から戻ってジャケットを脱いでいると、後ろから声をかけられた。
「高橋さん、緒方部長が探してましたよ。来週の北京出張の件で」
「あー、ありがとう。もう来週か。ばたばたしてて忘れてたな。あ、これ、営業5課の清水課長に回しといてください」
クリアファイルに入れた書類を声をかけた女性社員に渡すと、祐樹はそのまま部長室に向かう。そのすっきり伸びた背中に入社したばかりの女性社員の目線が張りつく。
「ホント、さわやか王子さまって感じですよね」
「顔いいし、優しい穏やかだし、彼女いないってホントかなあ」
「でも高橋さんて、あんな優しそうな顔してめちゃめちゃ仕事できるんですよね?」
「中国人との交渉では、ものすごい強気に出るって聞きました」
まだ学生気分の抜けない女性新入社員ふたりの遠慮ない物言いに、その場にいた男性社員ふたりは苦笑する。たしかに彼は優しそうな柔和な顔立ちだ。
二重のくっきりした目にすっきりとした鼻筋、きれいといってもいい整った容貌は28歳という年齢よりも若く見えることが多い。
しかしそれは仕事の上ではプラスにならないことがままあるのだが、ついこの前大学を卒業して会社に入ったばかりの彼女たちにはわからないようだ。
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