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過去の「キスだけ」を思い出して、祐樹は顔をしかめてみせた。
「孝弘の「キスだけ」は信用できない」
「あ、ひょっとして期待されてる? じゃあ頑張らないと」
「期待してないし、頑張らなくていいし」
「え、頑張らなくていいんだ? 祐樹が頑張ってくれる?」
軽口に祐樹は顔を真っ赤にした。
久しぶりに会えてうれしいのに、そんなふうにからかわれて心臓がどきどきする。
「孝弘、いじわるだ」
「うん、ごめん。あんまりかわいいし、うれしくてテンション上がってつい」
孝弘があまく微笑んで、ごめんなと祐樹の髪をなでる。
触りたがりは相変わらずのようだ。その手に安心する。触れられて気持ちが落ち着いていく。ここにいていいのだ。じぶんの居場所はここにある。孝弘のそばに。
「あとは、夜、二人だけになってから、な?」
見つめる目線に思いが込められている。うれしい。大好き。会いたかった。
なにひとつ隠さないで差し出してくれる気持ちをうれしく思った。
「ん、期待してる」
にっこり笑って祐樹がちゅっと孝弘の頬にキスをした。
そのやわらかな王子さまのような笑顔に、孝弘はおうと応えてにやりと笑った。
完
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