第5章  長城デート

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「なに上野(シャンイエ)、ずいぶん早いじゃん」  同室(ドンウー)の佐々木があくびまじりにベッドのうえでぼんやり目を開いていた。時計はまだ7時前だ。土曜にしては早い。 「慕田峪行ってくるって言ったろ」 「あーうん、みやげは長城まんじゅうな」 「ないわ、ボケ。じゃあな」  まだ寝ぼけた声の佐々木に突っ込み、孝弘は部屋を出た。  校門前でチャーターしておいたタクシーに乗り込む。  長城でゆっくりできるように、念のため朝は早めの出発にした。中国の移動はトラブルがつきもので、道路が途中で通行止めになっていたり、車が突然故障したりと、スムーズにいかないことが多いから時間には余裕を持ったほうがいいのだ。  前回待ち合わせた燕莎友誼商場で祐樹と合流し、途中で食糧と飲み物を買ってリュックに詰めた。八達嶺とはちがって、慕田峪長城付近はかなり田舎であまり店もない。    祐樹はTシャツにジーンズ、足元はスニーカーと前回よりさらにラフな格好で、そんなふつうの服でもやはりかっこよかった。全体のバランスがいいんだな。腰の位置が高くて足が細い。 「こないだは急に呼び出してごめんね。時間つくってくれて、ありがとう」 「こっちこそ、ごちそうさまでした」  祐樹が王府井で知り合った留学生と長城まで行くという話を上司にしたところ、上司がその留学生に一度会いたいと言い出して、先週、一緒に食事をしたのだ。
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