第2章  王府井大街(ワンフージンダァジエ)

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「え、ちょっと、困りますよ。明後日までの契約でしょう。こんなところで突然辞めるっていわれても」  王府井大街(ワンフージンダァジエ)の人ごみのなか、突然耳に飛び込んできた日本語に、上野孝弘(うえのたかひろ)はとっさに振り向いていた。  路上でスーツ姿の男二人がなにかもめていた。服装から見て顔が見えているほうが中国人、後姿が日本人だなと見当をつける。  日本人のほうが焦った声を出していて、中国人はうすら笑いを浮かべて、とってつけたように軽く頭を下げていた。 「この後、アテンドがあるのわかってますか? 信用問題ですよ」 「仕方ナイです。わたしも困ってイます。でももう約束した。だからスミマセン」 「ちょっと、王(ワン)さん。こんな形で契約終了になると次からはあなたには仕事をお願いできませんよ」 「あー、そうデスね。でも仕方ナイです。時間ナイので、失礼します。高橋さん、スミマセン」  そう言った男が逃げるように後退すると孝弘の肩にぶつかって、そのまま振り返らずに足早に去っていく。
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