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「それじゃあね。エドワード」
「…えっ」
そう言って笑ったアイツは、そのまま飛び降りたのだった。
俺とアイツはつい1カ月前から衣食住を共にしてきた、ただの同居人で、俺はアイツのことがとりわけ好きでもなかったし、気に入らないわけでもなかった。
ただ、最初の出会いから『ちょっと変な奴』とだけは思っていたが…
誰が想像できるものか…。まさか、急にこんな寂れたビル街の一ビルの屋上に呼び出されたと思えば、目の前で人が飛び降り自殺するところを目撃することになるなんて。
冗談じゃない。
ショックの前に、心底呆れてものが言えなくなる。
下を覗いて確認しなくても分かるアイツの末路と、悲しきかなその第一発見者になった自分の今後を考えると途方もない面倒事だと深くため息をつきたくなる。
…とりあえず、一服しようか。
平常な人が俺の様子を見れば、血相変えて不謹慎だとなじることだろうが…あいにく、俺はかなりルーズな性格で、どうにも薄情極まりない奴である。
ふぅ…
ゆっくりと吸い込んだ煙を吐き出しながら、アイツの最後の言葉を思い出して小さく呟く。
「…エドワードって誰だよ」
そう。俺は決して英国貴族よろしく『エドワード』なんて小洒落た名前では当然ないし、外国人でもハーフでもない生粋の日本人だ。
生まれてこの方、日本という小さな島国から一歩も外へなんか出たことのない、何の面白みもなくどこにでもいる少し素行の悪い24歳。
3日前にバイトをクビになり現在無職の男、結城伊織。そんな社会のゴミみたいな人間が俺だ。
1カ月とはいえ、一応は仲良く同じ釜の飯を食った奴にも最後はちゃんと呼んでもらえなかったくらいだ。それこそ社会的存在性の薄さを思い知ったさ。
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