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前日に佐久間から聞いていた道順を思い出そうとするが、全く出て来ない。
右だったか、左だったか…。
キョロキョロしていると、ちょうど向かいからくる20代くらいの男と目があった。
「チッ」
遥は舌打ちと同時に、男に背を向け、近い方の右の路地に向かって歩き出した。
「ねぇねぇ、道、案内してあげようか?」
案の定、男が声をかけてくる。
「いえ、結構です。」
「迷子でしょ?どこ行くの?連れてってあげるよ。」
「1人で行けますから。」
「そっち、工事中で行き止まりだよ?」
「……。」
ニヤニヤしながら、近付いてくる男を睨んで、遥は踵を返した。
「やっぱり迷子じゃん。」
そう言って目の前に立ちはだかる。
「退けよ。」
「おー、恐っ。」
苛立ちを露にするも、男のふざけた態度は変わらない。
「瀬能ー。何してんのー?」
不意にかけられた間延びした声に、驚いて振り向く。
「さ、佐久間?」
「瀬能、誰?この人?」
言いながら、見下したように男を眺める。
笑みの消えた佐久間の顔は、端正なだけに酷く冷徹に見えた。
「何だ、連れがいたんじゃん!じ、じゃあ!」
わたわたと男が走り去っていく。
その様子をぽかん、と眺めていると、佐久間のため息が聞こえた。
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