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「瀬能さ、そんだけ顔良かったら下手な女連れてるより見栄えするし、とりあえず出来るか試させてよ」
耳障りな荒い息。
強く壁に押さえ付けられた手首の痛み。
怒りと嫌悪と、抗えない恐怖心。
何度も繰り返し思い出す光景。
吐き気がする。
昼休みを告げるチャイムが鳴り、購買へ目当てのパンを求めてダッシュする者、学食へ向かう者、その場で弁当を広げる者、そんなクラスメイトを横目に、瀬能 遥は大きく伸びをして机に突っ伏した。
「遥、具合でも悪いのか?」
頭の上から降ってきた声に、チラリと目だけを覗かせる。
高野健吾。
遥の幼馴染みである彼とは、幼稚園からの付き合いだ。
中学から続けている柔道の賜物なのか、遥に比べて二回りほど体格がいい。
中高と美術部で絵ばかり描いている自分とは、雲泥の差だ。
「別に。眠いだけ。春だし。」
「いつまで春引きずってんだ。6月だぞ。」
呆れ顔の幼馴染みに、うるさい。とぶっきらぼうに答える。
「早く弁当食うぞ。腹へった。」
「はいはい。」
だるそうに上体を起こした遥は、大きな欠伸をして、目尻に浮かんだ涙ごと目を擦った。
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