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「瀬能にお願いがあるんだよね。」
「嫌だ。」
「せめて聞いて?」
間髪入れずに断る遥に、佐久間が身を乗り出してジッと遥を見据える。
嫌な予感しかしない。
「カメラのモデルになってくんない?」
出た。何回目だよ、こういうの。
「……何でオレなの?」
あからさまに嫌そうな顔をしてみせる。
「瀬能の、雰囲気が気に入ったから。」
………。
雰囲気?…って何だ?
今まで散々頼まれてきたモデルの依頼は、全て見た目重視の理由が主だった。
自分の容姿にコンプレックスを感じている遥は、当然全て蹴散らしてきたのだが、佐久間の返答に思わずきょとんと見返した。
「雰囲気って写真に映んの?」
「映るよ?」
さも当然と言うような表情で即答され、ますます訳がわからなくなる。
「つーか、佐久間さ、こいつの顔目当てじゃないよな?こいつ、こんな顔だから、そういう誘い多いんだわ。全部断ってるけど。」
黙って静観していた健吾が、おもむろに口を開いた。
言い方は引っ掛かるが、核心をつく問い。
最近は、こうして健吾が牽制してくれることが多い。
「他のヤツはどうか知らないけど、俺は顔の造作よりも表情重視して撮りたいタイプだから。あと、その人の雰囲気ね。」
「へー。だってよ。遥。どーすんの?」
珍しく、あっさり遥に決断を委ねた健吾。
健吾は佐久間の言葉が理解できたのか?
表情はともかく、雰囲気がよく分からない。
「お願い。瀬能。」
畳み掛けるように、佐久間が拝んでみせる。
「オレ、写真撮られるの苦手だからムリ。」
「ポーズ決めろとか、そういうのじゃないから。普段の感じ撮るだけ!」
「カメラ向けられると顔強ばるからムリ。」
「じゃあ、後ろ姿とかでも良いから!」
「…後ろ姿で良いなら、健吾でも良いじゃん。」
「健吾でも、って何だよ!」
「高野じゃムリ。」
「ムリ。って何だよ!」
散々な言われように、健吾が二人に突っ込む。
「瀬能じゃないと、撮れないから。」
「後ろ姿くらい、いいんじゃねー?」
「撮らせてくれたら、学食奢るからさ。」
「オレ、弁当派だから。」
「佐久間、遥は甘いものじゃなきゃ釣れないぞ。」
「ふーん。そうなんだ。」
佐久間がニヤニヤしながら、遥の顔を覗き込む。
「健吾、お前はどっちの味方だ?」
「俺はお前の味方しかしたことねーだろ。」
確かに今まではそうだった。
なのに何で急に手の平を返すのか分からない。
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