背中だけ

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放課後、遥はいつも一時間ほど校内で時間を潰してから、部活に参加している。 そうすれば千田にも会わずにすむし、満員電車にもぶつからないからだ。 今日は佐久間の誘いもあるので、遥は部活をサボることにした。 廊下の窓から中庭を見下ろして、写真部に顔を出しに行った佐久間を待っていると、背中に人の気配を感じて、遥は振り向いた。 てっきり佐久間だとばかり思っていたが、目の前に立つ人物は佐久間ではなかった。 向こうも、遥が急に振り向いたので驚いた顔をしている。 遥よりも、少し背の高い男子生徒。 制服のネクタイが青なので一年生だ。 遥たち二年は赤、三年は緑だ。 「あの、瀬能先輩。聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」 赤い顔をして、緊張しながら男子生徒が口を開いた。 「うん、何?」 「あの、付き合っている人がいるって、本当ですか?」 「…え?」 思ってもいない言葉に、遥が男子生徒を見上げる。 遥の綺麗な顔を間近で見て、男子生徒の顔がますます赤くなった。 「いや、あの、その、そういう噂があって…。本当なんですか?」 「違う、けど。」 何でそんなどうでも良いような事が噂になるのか。 噂になるほど目立つのもご免なのだが。 「あの、…俺、瀬能先輩の事が、好きです。だから、その、付き合って、下さい。」 たどたどしい告白。 緊張がこちらにまで伝わってくる。 「…名前、なんて言うの?」 「へ?あっ、あの、藤原、です。」 静かに尋ねられ、男子生徒が慌てて名乗る。 「申し訳ないけど、気持ちは受けられない。ごめん、藤原。」 申し訳なさそうに、それでもハッキリと断る。 「いえ、聞いてくれて、ありがとうございます。」 「うん。」 頭を下げる藤原に、遥が柔らかく笑む。 「あの、先輩。好きな人は、いるんですか?」 「えっ…」 同じシチュエーションで、何度も聞かれたことのある問いに、何故かドキリとした。 何だ?モヤモヤする。 「あっ、すいません。やっぱり良いです。」 遥の反応に、聞いてはいけなかったかと、頭を下げられた。 「いや、ごめん…。」 口ごもって謝るしかない。 「じゃあ、ありがとうございました。」 律儀に礼を言って、藤原は去っていった。 何となく、わがたまりを感じて、スッキリしない。
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