背中だけ

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あの後、どうやって自宅に帰ったのか、実はあまり覚えていない。 佐久間の言葉がぐるぐる回り、佐久間のキス思い出すと、心臓がおかしくなる。 何をしていても、何となく佐久間が気になった。 そんな知らない感覚と知らない感情に、自分が押し潰されそうだった。 夜もなかなか寝付けず、こんな状態がずっと続くのならば、佐久間と距離を置いて前の自分に戻りたいと思った。 しかしそんな思いとは裏腹に、佐久間の声に、手に、仕草に、どうしようもなく心が乱されてしまう。 「俺の事、ちゃんと意識してて」という佐久間の言葉に縛られて、身動きがとれない。 心身共にすっかり疲弊しきって、遥はぐったりと机に突っ伏した。 日頃の寝不足が祟って、弁当を食べ終えると睡魔に襲われる。 「瀬能、眠いの?」 柔らかな髪を撫でながら、佐久間が問う。 撫でるその手が心地よくて、そう感じる自分に戸惑う。 「…うるさい。触んな。」 言葉に反して、声は柔らかい。 本当に眠いのだろう、完全に隙だらけである。 「こいつ、朝の電車でも寝倒してたからな。」 呆れたように、健吾が言った。 完全に目を閉じている遥を眺め、佐久間はデジカメを取り出した。 「瀬能、こっち見て。」 ほとんど夢の中だった遥が、それでも佐久間の声に反応して、ゆっくりと目を開けた。 顔を上げずに、声のする方へ導かれるように流し目を送る。 ―パシャッ! シャッター音が意外なほど響いて、何人かのクラスメイト達が振り向いた。 「おい、がっつり顔撮ってんじゃん!」 後ろ姿だけという話だったはずなので、健吾が慌てた。 「……いいの、撮れたか…?」 流し目を向けたまま、眠そうに確認する遥。 周りの予想に反して、勝手に撮影したことを全く非難しない遥に、皆の注目が集まった。 「うん。すげーいいの撮れた。勝手に撮ってごめん。」 「…別に、いい。…オレじゃ良いの撮らせてやれないし…佐久間の、好きにしていい…。」 言葉の後半は目を閉じて、寝言のように呟く。 そして、すぐに寝息に変わる。
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