1.お向かいののんちゃん

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 お向かいののんちゃんが、この春大学を卒業して就職する。のんちゃんが希望していたシンクタンクに就職が決まったそうで、おばさんも喜んでいた。大学時代も、ここから都内へ通っていたけれど、当分の間は同じようにこの自宅から通うつもりらしい。確かに1時間くらいかかるけれど、家事を一切やらずに済むし、朝寝坊の心配も無いから、というのがその理由。  小さい頃から、勉強もスポーツも万能で、おまけに背も高く顔立ちも甘くて俗に言うイケメンなのんちゃんは、小中高通して全校生徒の憧れの的だったし、他校であっても名前ぐらいはみんな知っているというこの町のちょっとした有名人だ。たぶん、大学でもそうだったと思う。  そんな完璧なのんちゃんの唯一の弱点が、朝の寝起きがむちゃくちゃ悪いこと。放っておけばお昼まで寝ているなんてザラで、おばさんも毎朝起こすだけで本当に大変だといつも愚痴っている。いつもは完璧な容貌で、一切の隙が無いのんちゃんが、朝の寝起きだけは無防備で、寝癖の付いた髪であくびをしながらよろよろと支度している様を見ていると、そのギャップの大きさに、感動すら覚える 。  そんなのんちゃん の様子を知っているのは、家族を除けば私だけだ。
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