1.お向かいののんちゃん

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 幼なじみというのは、本当に微妙なもので、家族でも無ければ、かと言って、まったくの他人と割り切れるものでもない。近くて、でも、遠くて、よく見ることはできても、触れることは許されない展示ケースの中の宝石みたいだ。  私にとって、のんちゃんがそんな存在になったのは、私が高校生になった時だった。中学2年になったのんちゃんが声変わりした頃、急に私を避けるようになったのだ。  それまでは、仲のよいお向かいの幼なじみとして、顔が合えば親しく話したし、女の子が欲しかったおばさんが、私を家に招いてくれて他愛もないおしゃべりをしていれば、それに混ざってきたりもしたのに…。  それ以降は、さすがに無視することはないにしても、ぺこりと挨拶するとすぐ自室へ行ってしまう。親しく話すことは皆無になり、一体のんちゃんの声を聞いた最後はいつだろう?というぐらい、遠い存在になった。寂しいな、とは思ったものの、お年頃の男の子だから仕方ないのかも、とも思っ た。逆の 立場だったら、やっぱり2つ年上の女の子の幼なじみと堂々と仲良くはできないだろうな、と納得もした。  そうやって疎遠になってからも、不思議なことに小さい頃からずっと続けていたバレンタインとホワイトデーのやり取りだけは、途切れることがなかった。それも、ずーっと同じ物。私からは、近所の洋菓子屋さんのチョコレートケーキを、のんちゃんからは、同じお店のホワイトチョコサンドのクッキーを贈り合っている。ずっと続けているから、止め時がわからなくて続けてしまっているのだけれど。  てっきりのんちゃんからの分は、おばさんが買ってくれている物だとばかり思っていた。それがのんちゃん本人が買っているのだと知った、今年の3月。たまたまお店の前を通りがかって、のんちゃんがいつものクッキーを買っているのに気づいた。  その日から、私の心は波立って仕方ない。
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