乾日向は困っている

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高校入学のときから、彼女は俺に構っていたわけではなかった。 それはある日突然に、夏休みが明けた次の日から始まったのだ。 「おはよう、日向くん」 「…………おはよう」 いつもの通学路。 音楽を聞きながら学校へ向かっていると、待ち構えていたように駆け寄り笑顔で挨拶をしてきたのが彼女だった。 クラスメイトだし、明るい彼女はクラスのムードメーカー的存在で中心人物だった。 周囲とは距離を取っていた俺にも、気さくに下の名前で呼び、必ず教室で朝顔を合わせると挨拶だけはしてくれていた。 けれど通学路で声を掛けられたのは初めてだった。 おまけに退いてくれず、なぜかニコニコ顔で俺を見てくる。 「……なに?」 イヤホンを片耳だけ外し様子を窺いながら聞くと、彼女は表情を変えず言った。 「日向くん、私と友達になって!」 「…………は?」 一瞬フリーズしてしまうほど、奇想天外な言葉だった。 友達……? 俺と? 冗談か罰ゲームとしか思えないけど、どうやら本気のようで唖然と立ち尽くす俺に「日向くん、ちゃんと聞こえた?」と聞いてくる。
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