畑の蛙

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畑の蛙

 休日は、田舎に借りた畑で家庭菜園をしている。  収穫にはまだ早いが、あちこち畑に手を入れて、今日はこれで一段落。一休みしてから帰ろうと、畑の傍らの畦道で持って来たお茶を飲んでいた。  ふと横を見れば、どこから現れたのか、一匹の蛙が俺を日除けにしてうずくまっている。  こいつも一休みの最中かと親近感が湧き、湿り気のないその背中に、ぬるめのお茶を少しだけかけてやった。  すると、俺がしたことが判っているのかいないのか、返るはこちらをじっと見上げ、ケロケロと一声鳴いた。そしてどこかへ去って行った。  その翌週、畑に来ると、いくつかの作物が収穫期を迎えていた。  早速刈り取り、ワゴン車の荷台に作物を詰める。  どうにか一通り収穫しただろうか。そう思った時、畑の隅の方に見知らぬ作物が実っているのを見つけた。  近寄って見てみるが、トマトのような色合いのその作物を植えた覚えがない。  虫や鳥が媒介になって、近くの畑の作物がこちらの畑に生えたのだろうか。だとしても、うちの畑に実っているのなら収穫しても構わないだろう。  そう思い、実りに手を伸ばしかけた時、ひょいと軍手の上に一匹の蛙が飛び乗ってきた。  色といい大きさと云い、それは間違いなく、先週俺が水をかけた蛙だった。でも、どうしてそいつが突然現れ、手に乗って来たりしたのだろう。  そんな疑問を浮かべた月の瞬間、蛙の下がびよんと伸び、目の前の実りにぶつかった。  ポンと小気味よい音を立てて赤い実が割れる。そこから、何匹物は虫が一斉に外へ飛び出した。だが、高速で動く蛙の舌が、一匹残らず虫を絡め取り、胃袋へと収めていく。  やがて散った虫総てを食べ尽くしたらしく、真ん丸に膨らんだ腹を天に向けながら、蛙はまたケロケロと鳴いた。  …この後、俺は得体の知れない作物には決して触れず帰ったけれど、その翌週、赤い実りは総て消えていた。  その時も、姿は見えなかったが、畑のどこかでケロケロと声がしていた。  もしあの時、俺を日除けにしている蛙を見つけなかったら、水をかけてやらなかったら、俺はもしかしたら今こうして、のんびり家庭菜園を楽しんではいないのかもしれない。  そう思う俺の耳に、どこからともなく、ずっと、ケロケロという楽しそうな声が響いていた。 畑の蛙…完
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