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「また明日」
力を抜いた私の手から、桐哉の手がすっと離れていく。
私は手のひらに残る桐哉の体温を逃がさないように、ぎゅっとこぶしを作った。
「また……明日」
そう返すまでにかなりの時間を要した。
ざあっと大きな風が吹いて、公園中の緑が、まるで私の心を表すかのようにうねる。
アップにしていた私の後れ毛もなびいて、顔にかかった。
唇にはりついた数本の髪の毛を取ってくれた桐哉は、また優しい笑顔を見せて、「じゃあな」と言った。
そのまま自分の家の方へと、十字路を渡っていく。
「……」
桐哉、と心のなかで呼んだ。
当たり前だけれど、桐哉は振り向かなかった。
そのままどんどん小さくなる後ろ姿が暗がりにぼやけていき、ついには見えなくなってしまった。
また、どこからか風鈴の音がする。
私はその音を聞きながら、しばらく佇んだままだった。
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