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「そっか……」
「うん」
風鈴の音が聞こえる。
9月に入っただけで、もう季節外れみたいに思えるのはなぜだろう。
「清陽高?」
「うん、清陽高」
「いい男?」
「いい男」
微笑んでそう言うと、楓も同じように微笑んだ。
そして、ふたりともまた川を見る。
緩やかに、でもたしかに流れていく川を。
私の今の日記は、真っ白だ。
でも、私とこの河川敷が覚えている。
ずっと、ずっと覚えている。
「私も、ちゃんと話……してみようかな」
楓がぽつりと呟いた。
小学生くらいの男の子たちと女の子たち数人の声。
少し離れたところにある斜面をスピードを上げて駆け下り、みんなではしゃいでいる声が聞こえてくる。
遠く、自転車の車輪の音、車の音、鳥の声。
当たり前で愛しい、日常の音たち。
「うん」
私は空を見上げて返事をした。
あの日の花火を、もう一度胸のなかに描きながら。
【END】
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