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「え、これを着るのですか?」
早瀬が渡された紙袋を片手に更衣室で見た物は動物のツナギだった。
白い生地でパーカー部分には長い耳。お尻の部分には丸い尻尾。
「うさぎ・・ですかね?」
クラスメイトはネコやトラ、狼にサルなど色んなツナギを着ていた。
昨年はお化け屋敷だったが、今年はアニマル喫茶だ。
可愛い子を目当てに何時間も粘る生徒や体格の良い生徒には目を潤ませて見とれていたりして大いに繁盛していた。
早瀬も例外ではなく今朝渡されたツナギを見て目を白黒させていたが、今年で最後の文化祭を満喫したい彼はそれに戸惑いつつも着てみた。
「こ、これは・・ちょっと恥ずかしいですね」
等身大の鏡に映った自分の姿にショックを受けながら顔を赤らめて更衣室から出ると、偶然通りかかった神谷康平と目があった。
「あっ・・」
「えっ・・・ええーっ!・・か、会長・・?」
普段言葉を交わすことがないが吉井のことで顔見知りになった二人はこの状況に固まる。
あれって、早瀬会長だよな?
か、神谷くん!何で彼がここに?
白いウサギのツナギを着ている早瀬に神谷の目はくぎ付けだ。
サイズが大きいのか襟元がぶかぶかで鎖骨が見え隠れしている。
袖だって長くて余っているのを肘のあたりまで上げているしズボンの裾もくるくると巻き上げていた。
少し不格好だがそれがまたなんとも言えない色気を・・・
「神谷くん・・?」
顔を真赤にしている神谷に早瀬は恥ずかしいと思いながらも何とか教室までこの姿をみんなに見せたくなくて声をかける。
できれば神谷を盾にして教室まで移動したい。
そう思ったのだが、神谷は目が合ったとたん顔を逸らしてしまった。
「神谷くん・・」
もう一度声をかけてやっとこっちを向いてくれた。
「な、何ですか?」
「えっと、あの・・ちょっとお願いが・・」
早瀬も顔を赤くしてもじもじしながら話すものだから神谷の鼓動がうるさく音をたてる。
オレって、会長には何の気持ちもなかったはずなのに・・
かわいい・・と思った。
しかも上目づかいで見つめられてドキドキしない奴がいないはずかない。
神谷の鼻からツーっと温かいものが流れるのを感じたかと思うと意識がフッとなくなったて、バタンとその場で倒れてしまった。
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