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ホームルームが終わっても、誰もが名残惜しそうにその場から離れない。大好きな友達と、先生と、いつまでも話を続けている。
「いつでも遊びに来い。待ってるぞ」
この学校を巣立つ生徒たちに、そういった温かい言葉をかけていた衛だったが、随分前から気になっている事があった。
陽が、いないのだ。
ホームルームが終わり、皆が席を離れ、それぞれに別れを惜しみあっているその中で、さっさと独りで教室を出て行ってしまった陽。
だが、そんな中で安心した心地もあった。彼がいる場所は、だいたい見当が付いていたから。
出会ってすぐは危なげな、ふぅっと壊れてしまいそうだった橘 陽。
この3年間で、見違えるほど成長した。こんな特別な日に教室をすぐに出て行ってしまっても、その足でいかがわしい溜まり場へ行くことは、もうない。金持ちをつかまえて、援交をねだる事もない。
教室から一人減り、二人減り、そして誰もいなくなり、衛は最後にそこを立ち去った。
一年を通して、いつも明るい温室。
初めて見た時はまるで廃墟だったが、今では立派なこの学校の名物になっている。
そして、荒れ果てた植物たちを瑞々しく甦らせた、緑の魔法の指を持つ小癪な猫が、その奥のソファで昼寝をしているはず。
衛は確信を持って、温室の奥へ歩みを進めた。果たしてそこには、初めて出会った時と同じように大きな古びたソファの上で、小さく丸くうずくまって眠りこんでいる陽の姿があった。
衛の影が瞼に落ち、陽はゆっくり眼を開けた。
「おはよう」
「……遅い」
不機嫌そうな声を吐き、陽は身を起こした。衛の姿を、上から下までじろじろと眺め、ふん、と鼻を鳴らしてにやりと笑う。
「やっぱり」
「やっぱり、とは何だ」
くっくっ、と笑いながら、陽は彼に腕を伸ばしてきた。
「僕が、貰ってあげる」
「何を?」
鈍いなぁ、と半ば嘲りのような声をあげ、陽は衛の白衣のボタンを上から順に指先でつついて笑った。
「マモルのボタン、だぁれも欲しいって言わなかったんだろ? 可哀想だから、僕が貰ってあげる。第2ボタン」
ぐぅ、と衛は軽く口の端を下げると、淡々とこう言った。
「着替えたから、解からないだけだ。式典で着ていたスーツのボタンは、あっという間に女子たちに全部むしりとられていったぞ」
「嘘ばっかり」
楽しそうに笑った後、陽は衛の顔を見上げながら眼を細めた。
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