影鬼

2/5
前へ
/5ページ
次へ
 「宮本さーん、居るんでしょお~?あけてくださいよぉ~。」 執拗にチャイムは鳴らし続けられる。 俺は恐怖で部屋の隅っこで震えていた。 テレビCMでも有名な消費者金融で、クリーンなイメージを抱いており、正直、返済の遅れなどなんとかなると思っていた。金が無いから借りるのであって、地道な生活をしていれば金を借りることもなかっただろう。 競輪競馬パチンコ。稼いだ金はほとんど、こういったギャンブルに溶かしていた。 今思えば愚かな行為だ。前の職場にギャンブル好きな同僚がおり、つい誘われるがままについて行ったら、自分がハマっていった。最後には、誘った本人が心配して、たいがいにしときぃや?なんて注意を促される有様。 俺はギャンブルのために借金を重ねた。最初は同僚から。あまりにも俺が借金を重ねるので、気がついた時には、周りから誰も居なくなっていた。俺には莫大な借金だけが残り、やむなく消費者金融に金を借りたものの、友人への借金の返済に充てるでもなく、俺はまたそれを軍資金にしてしまった。俺の無責任さに職場の人間はあきれ果て、とうとう俺は逃げるようにその会社を辞めざるを得なかった。  そして返済期限がとうに過ぎた今月、ついに、絵に描いたような取立て屋が訪ねて来た。無職の俺に返す当ては無い。チャイムで出てこないとなると、今度は容赦ない怒声が俺の住んでる安アパート中に響いた。 「おーい、出て来いごるぁ。居るんだろぉ?」 今度はドアをどんどん足で蹴る音が。無論誰も息を殺して出て苦情を言おうものは一人もいないだろう。あんな大手がこんなチンピラまがいの男をよこして来るなどとは、想像もしなかったのだ。 「ねえ~、みやもとさーん。借りたものはちゃんと返しましょうよ。み・や・も・とさ~~~~ん!」 そう言うとなにやら、ボロアパートの木のドアの間から、ギラギラと光る、牛刀が差し入れられた。 牛刀は、上ヘ下へとドアをの隙間を舐め、脆弱な鍵は今にも破られそうだった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加