第一話、気にならない人

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 半年前、高校を卒業した記念にと北海道旅行を計画した。都内から北海道まで車で行こうと盛り上がったのだ。多分にドライブが楽しくて仕方がなかったのだろう。だからそんな無茶な旅行を計画した。もちろん免許をもっているのが洋平と私の共通の友人、若中野比呂(わかなかや ひろ)しかいなかったから運転は彼に一任した。  そうして私達仲良し三人組はレンタカーを借り、一路、北海道へと向かった。  楽しい旅が始まった。  まだ見ぬ未知なる世界、北海道に心躍った。車中から見える何気ない風景さえ、とても新鮮なものに写り、また下らない会話ですら幸福に感じた。順調だった。全てが順調だった。むしろ楽しすぎて、いつまでもこの瞬間が続けばいいのにとさえ思った。  あの瞬間までは……。 「ねえ。洋平?」 「なんだよ。喉でも乾いたか。うん? もしかしてその顔はトイレか?」 「う、うん。ごめん。おトイレ……」  恥ずかしくて顔を赤く染め、小さな声で答えた。  そこで凄惨な事故が起った。  いねむり運転をしていた大型トレーラーが対向車線から突っ込んできたのだ。運転自体初心者な比呂。それに加え、何時間も休憩なしで一人運転していたのだ。疲れていたんだろう。慌ててハンドルを切り、回避しようとするが間に合わない。突然のアクシデントに対応しきれていなかった。  しかしながら、なんたる王道的展開。  今思えば逆に笑える。  しかし当時は青天の霹靂だった。思わず目をつむった。怖くて体が強ばった。後部座席に座っていた私は衝突の衝撃で前方へと飛び出しフロントガラスを突き破った。そして道路へと叩き付けられた。薄れいく意識。ほぼ即死だったと思う。運転席の比呂と助手席の洋平は膨らんだエアバッグに埋もれていた。なんとか車外に出ようともがき苦しむ二人の姿を見たのが、生前最後の記憶だった。  そうして幽霊となった。
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