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足元から伝わってくる振動が脳に響く。エンジンの奏でる重低音が心地いい。
「ぜったいむーてきのーライバーマーン!」
サイドカーの助手席に座る春夏冬陽葵は元気に歌う。その子供らしい明るい歌声も、重い音にかき消されてほとんど耳には届かない。
チラリと隣を見ると、エンジン音に合わせて小さな頭がゆらゆら揺れている。角度的にヘルメットしか見えないが、淡いピンクの可愛いヘルメットが桜のように揺れていて、今にも飛んでいきそうだ。
数十メートル先の信号が青から黄、そして赤に変わる。
ゆっくりとスピードを落として、停止線ぴったりに止まる。
「なあっ?」
エンジン音に負けないように声を張る。
「なにーー?」
陽葵も負けじと大声をだす。
「腹減ったかぁ?」
「なにーー?」
...エンジンを切る。重低音がパッと静まり、むず痒いくらいの静寂を感じた。
「腹、減ったか?」
「減ったーー!」
どうやら大声を出すのが楽しかったらしく、精一杯に声を荒らげる。顔を見なくても笑顔なのが分かる。
「なにが食いたい?」
「うどんー!!」
「うどんか...。よっしゃ、うどん食いに行くぞ!」
「行くぞーー!」
拳を高く振りかざす陽葵と俺。
後ろで信号待ちをしていた車の運転手が驚いていたことに気付いていなかった...
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