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「最初は誰かが中央の広場を抜けて、俺の棟の、一番端にある非常階段から建物の中に入ってくるって所で夢が終わった。
翌日も同じ夢を見たんだ。その日も非常階段から入ってきて、非常階段に一番近い部屋の玄関まで。その次の日はまたその隣の部屋までって具合にちょっとずつ進んでくるんだよ。」
「毎日?毎日、夢の続きを見るのか?スゴいな!」僕はちょっと驚いてAの顔を見た。
「ああ・・・続きというか、同じとこから始まって、前の日の続きがあるんだよ。」
Aは疲れたような、だるいような口ぶりで答えた。
夢の中でAは「誰か」を確かめようとするのだが、どんなに目を凝らしてもぼんやりとしてはっきり見る事ができない。「誰か」は何をするでもない。ただ団地の中を歩いているだけだ。しかし、確実にAの部屋に近づいている。それに気づいてから毎晩寝るのが怖くなったというのだ。ここ数日、怖くて眠れないと呟くAの目の下には隈が張り付いていた。
(たかが夢じゃないか。そんなに気になるか?)
僕はそう思いつつも、不安と疲れが見えるAを目の前に笑う事もできなかった。
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