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誰もいない階段の踊り場で、私はクマのぬいぐるみを腕に抱いたまま一息つく。
壁に寄りかかって、腕の中のぬいぐるみを見つめた。
「…このぬいぐるみ、かわいいな」
もふもふがたまらなく気持ちいいし、抱き心地もいいなぁ。
あ、でも駄目。このぬいぐるみは人質なんだから!
あいつは今頃、このぬいぐるみを探しているはず。
彼女のぬいぐるみなのかな?でもでも!学校に持って来るくらい何だから、きっと大切なぬいぐるみなのよ!
このぬいぐるみと交換条件に、圭也先輩に近づくなって言ってやるんだから!
「…でも、このぬいぐるみ欲しいかも」
どこで売ってるのかなぁ、買いに行きたい…。
ぎゅーっと抱きしめて頬が緩んでしまう自分に気づき、ハッとして慌てて首を振る。
ダメよ渡辺類!このぬいぐるみは人質なんだから!
「…さて、そろそろあいつを探しに行こうかな」
私は呟いて、壁から背中を離して階段を下りようとした。
その時ーーとんっと軽く誰かにぶつかった。
「っ、…え?」
人が近づいて来ていた気配を、まったく感じなかった…。
私はびっくりして目を見開き、体を硬直させる。
「みーつけた」
その冷たい声にゾッとして視線を上げると、私の目の前で八尋律斗が笑っていた。
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