上.最終話「笑顔で。」

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圭也さんは怒りを吐き出し俺を睨みつけた後、律の腕を掴むとドアへと向かう。 「痛い…っ!」と痛がる律を気にすることなく強引に引っ張りながら、2人は部室から出て行った。 「ハァ…」 1人取り残された俺は、床から立ち上がることもせずに、重いため息を吐いて天井を見上げる。 「…何やってんだろ、俺…」 俺自身にそう呆れながら、苦笑した。 * * * 圭也先輩に無言で腕を引っ張られる。 その背中から怒りを感じて、俺は抵抗もできずに黙っていた。 そして人気のない男子トイレの中へと入ると、奥の個室へと押し込まれて、圭也先輩が鍵をかける。 男2人の狭い個室で、俺は圭也先輩の顔を恐る恐る見た。 「あの、圭也先輩…」 「律斗、さっき金田が言っていたことは全部ほんとうか?」 閉じられたドアから振り返った圭也先輩の目が、冷たく光る。 俺は一度言葉を呑み込んだけれど、諦めて正直に言った。 「…本当だよ。でも、類のことは違う。抱き合ってなんかないし、圭也先輩にフラれて落ち込んでた類を、ちょっと慰めてあげてただけだよ?」 「俺には女の子に優しくするなって言っといて、律斗はいいのかよ。理由があるとしても、俺が嫉妬しないと思ってるのか?」 圭也先輩はそう言った後に小さく笑って、困ったように眉を歪める。 傷ついているその表情に、俺はもう何も言えなくなった。 …確かに、俺は圭也先輩と女子の距離が近いことを気にして、嫉妬して、怒る。 でもそれは圭也先輩も同じだ。 理由があっても、類と俺が抱き合ってたなんて聞いたらーー…傷つくよ。 「…ごめん、圭也先輩。俺が悪かったよ」 「類ちゃんのことだけか?」 「え?」 「金田にもいろいろされてたんだろ?初耳でビックリしたぞ、しかもキスって…何だよそれ」
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