第2話「お人形と笑顔の練習。」

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「ここは大切な資料などを置いている部屋だ。そんな場所でサカってもらっては困るな」 その人は鋭い目を細めて、眼鏡を指先で軽く押し上げると中に入って来た。 俺は圭也先輩の力が緩んだのを確認する。 あ、チャンスだ! 「すみませんでした!すぐに出て行きますね!」 「あっ…こら待て律斗!」 圭也先輩から抜け出して、俺はすぐさまドアに向かって走った。 呼び止める圭也先輩の慌てた声も無視して、そのままその部屋を出てダッシュする。 副会長にあの状況を見られたのは最悪だけど、とりあえず助かった! 圭也先輩にまた捕まらないように、気をつけないと。 * * * ーーーー… 『杏~待ってよ、一緒に帰ろう!』 俺を後ろから呼び止めたのは、中学の学ランを着た律だった。 律は俺に追いつくと、いつものようにニコッと笑う。 けど俺の表情を見て、笑みを消すと眉を下げた。 『杏…元気ないね、どうかした?』 『…別に。帰るぞ』 『うんっ。あ、そうだ。夕飯どうする?俺の母さんがまた夜遅いんだぁ、杏のお父さんは?』 『…出張だから、今日は帰って来ない』 『じゃあ一緒に夕飯食べて、一緒に寝よう!カレーにしようね~』 俺の隣を歩く律はニコニコと笑っている。 俺はその笑顔を見て、ホッと心が和らいだ。 自然に笑みがこぼれそうになってーー…でも、律の次の言葉に顔がこわばる。 『あ、そうだ杏。俺、彼女できたから』
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