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「ここは大切な資料などを置いている部屋だ。そんな場所でサカってもらっては困るな」
その人は鋭い目を細めて、眼鏡を指先で軽く押し上げると中に入って来た。
俺は圭也先輩の力が緩んだのを確認する。
あ、チャンスだ!
「すみませんでした!すぐに出て行きますね!」
「あっ…こら待て律斗!」
圭也先輩から抜け出して、俺はすぐさまドアに向かって走った。
呼び止める圭也先輩の慌てた声も無視して、そのままその部屋を出てダッシュする。
副会長にあの状況を見られたのは最悪だけど、とりあえず助かった!
圭也先輩にまた捕まらないように、気をつけないと。
* * *
ーーーー…
『杏~待ってよ、一緒に帰ろう!』
俺を後ろから呼び止めたのは、中学の学ランを着た律だった。
律は俺に追いつくと、いつものようにニコッと笑う。
けど俺の表情を見て、笑みを消すと眉を下げた。
『杏…元気ないね、どうかした?』
『…別に。帰るぞ』
『うんっ。あ、そうだ。夕飯どうする?俺の母さんがまた夜遅いんだぁ、杏のお父さんは?』
『…出張だから、今日は帰って来ない』
『じゃあ一緒に夕飯食べて、一緒に寝よう!カレーにしようね~』
俺の隣を歩く律はニコニコと笑っている。
俺はその笑顔を見て、ホッと心が和らいだ。
自然に笑みがこぼれそうになってーー…でも、律の次の言葉に顔がこわばる。
『あ、そうだ杏。俺、彼女できたから』
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