第2話「お人形と笑顔の練習。」

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ドクッ…と心臓が鳴って締め付けられた。 『…あの人?』 『うん、家族を捨てた俺の父親。母さんがさぁよく言うんだ。“律はお父さんにそっくりね”ってさ』 胸元をぎゅっと握りしめて俯いたままの俺に、律は冷たい声で続ける。 『まぁ確かにそうなのかなぁって思うよ。俺、母さんにあんまり似てないし。それに飽きっぽいしさぁ』 『っ…』 『杏は1人になるのが怖いの?俺に飽きられて、捨てられるのが嫌?』 俺は素直にこくりと頷き、震える声を絞り出す。 『…母さんは、俺が小4の時に事故で死んだ。父さんは仕事が忙しくて、家には帰って来ない。…俺はずっと、あの家に1人なんだ』 『うん、知ってるよ。でも…俺も杏と同じで寂しいよ』 俯いた視線の先に、律の足先が見えた。 すぐ目の前に居る律が、優しい声で俺に言う。 『…俺たち同じだね。お互いに寂しいから、ずっと一緒にいたいんだよね』 『……』 『ねぇ杏、ずっと俺と一緒にいたいなら、俺のお人形にならない?』 え…? 驚いて顔を上げると、律は手を後ろで組んで微笑みを浮かべていた。 『俺がぬいぐるみ好きなの、杏も知ってるだろ?お気に入りのぬいぐるみは、俺すっごく大切にするし、ずっと離さないんだ。 だからね、杏を俺のお気に入りの1番にしてあげるよ』 『…っ…』 『…そしたら、俺は杏のこと捨てないし、1人にしない。ずっと一緒にいるし、大切にするよ』 俺のことを捨てない… 1人にしない… ずっと一緒にいる… 大切にする…
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