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ドクッ…と心臓が鳴って締め付けられた。
『…あの人?』
『うん、家族を捨てた俺の父親。母さんがさぁよく言うんだ。“律はお父さんにそっくりね”ってさ』
胸元をぎゅっと握りしめて俯いたままの俺に、律は冷たい声で続ける。
『まぁ確かにそうなのかなぁって思うよ。俺、母さんにあんまり似てないし。それに飽きっぽいしさぁ』
『っ…』
『杏は1人になるのが怖いの?俺に飽きられて、捨てられるのが嫌?』
俺は素直にこくりと頷き、震える声を絞り出す。
『…母さんは、俺が小4の時に事故で死んだ。父さんは仕事が忙しくて、家には帰って来ない。…俺はずっと、あの家に1人なんだ』
『うん、知ってるよ。でも…俺も杏と同じで寂しいよ』
俯いた視線の先に、律の足先が見えた。
すぐ目の前に居る律が、優しい声で俺に言う。
『…俺たち同じだね。お互いに寂しいから、ずっと一緒にいたいんだよね』
『……』
『ねぇ杏、ずっと俺と一緒にいたいなら、俺のお人形にならない?』
え…?
驚いて顔を上げると、律は手を後ろで組んで微笑みを浮かべていた。
『俺がぬいぐるみ好きなの、杏も知ってるだろ?お気に入りのぬいぐるみは、俺すっごく大切にするし、ずっと離さないんだ。
だからね、杏を俺のお気に入りの1番にしてあげるよ』
『…っ…』
『…そしたら、俺は杏のこと捨てないし、1人にしない。ずっと一緒にいるし、大切にするよ』
俺のことを捨てない…
1人にしない…
ずっと一緒にいる…
大切にする…
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