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* * *
「ーー…」
「あ、起きた?」
カウンターに突っ伏して眠っていた杏君の目が、薄っすらと開いた。
隣に座って本を読んでいた俺は、身を起こしてぼんやりしている杏君に話しかける。
「まだねむいなら、寝てていいよ?」
「ーー…夢、か…」
「…?ははっ、夢を見てたんだね」
杏君が俺に視線を向けて、小首を傾げる。
まだぼんやりしている杏君に、俺はカフェオレを差し出した。
「飲む?もう冷たくないけどな」
「…いただきます」
俺の手からカフェオレを受け取った杏君から視線をそらして、俺はさっきまで読んでいた本に視線を落とした。
静かな図書室内に、しばらく沈黙が続いた。
「……杏君、あのさ」
「やっぱり、しません」
はっきりと聞こえた杏君のその言葉に驚いて、俺は隣に座っている杏君を見た。
「え…?」
「…笑顔の練習は、やっぱりしません」
「…どうして?」
俺が優しく問いかけると、杏君は唇をきゅっと引き結んで、俯いた。
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