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黙り込んでしまった杏君に、俺はどうしたらいいのか分からなくて、困ったまま口を閉ざす。
すると杏君が、ぽつりと言った。
「…俺は、人形だから」
「…え?」
人形?
すると杏君が顔を上げて、俺に視線を向けた。
無表情な顔に、虚ろな眼差しが俺を見つめる。
「…楽しいとか嬉しいって思ったら、人は笑顔になるって、先輩は言いました。でも…俺は人間じゃない、だから笑う必要もない」
「待って、おかしいよ。杏君は人間だ、人形なんかじゃないだろ?」
俺は無意識に怒った口調になって、杏君の肩に手を置いていた。
杏君の瞳を見つめて、言う。
「杏君にはちゃんと感情がある。笑うことだって出来るんだ。人形なんかじゃない」
「…けど、人形じゃなきゃ、俺は律に捨てられる…」
「え、律斗君?」
「…俺は律の人形なんです。律がそれを望んでいるんです。そうしなきゃ、あいつは俺を捨てる。そしたら俺は1人になる、1人は、嫌だ」
「ちょっと待って…」
「誰も俺を必要としない。でも律だけが俺を見てくれる。ーー…っ、必要としてくれる」
ぎゅっと、杏君の眉が寄った。
杏君の無表情が、崩れかかっているーー…。
「杏君、大丈夫だから、落ち着いて」
「っ…」
ぽんぽんと頭を優しく叩いて、ゆっくり撫でると、杏君は辛そうな顔のまま俯いた。
初めて見る、杏君の顔だ。
「…律斗君は杏君のこと大切に思ってる。だから、人形なんかにならなくても、律斗君は杏君を捨てたりしない」
「……そんなの、わからない」
「じゃあ、俺じゃダメかな?」
ぴくっと肩が震えて、杏君は恐る恐る顔を上げた。
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