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「葵、俺と付き合ってくれないかな?」
私、矢吹葵(やぶきあおい)に告白をしてきたのは、同僚の佐々木陽(ささきよう)。
一つ上の先輩である佐々木さんは、気も利くし、とても優しい。
しょっちゅう仕事帰りに飲みにも行くし、気も合うし、後輩の私が言うのもなんだけど、友達みたいないい関係を築かせてもらっている。
「職場恋愛? それってどうなんです?」
「別に良いんじゃないの? 別れる前提で物事考えるからそんな発想になるんだよ」
「知ってると思うけど、私元彼が忘れられないままだし・・・・・・」
「知ってる。それでも頑張るよ」
「でも・・・・・・」
きっと私は、慶太ーー元彼以上に好きになることなんてない気がするんです。
そんな事は言えないと、言葉を濁らせた。
「好きになってなんて、望んでないよ。ただ、賭けてみてよ、俺に」
「・・・・・・じゃあ、お願いします」
私は私なりに、こうやって元彼を断ち切るために前に進もうともがいてはみる。
佐々木さんの事だって、好意がない訳じゃない。
男らしい一面も知ってるし、女としてドキドキさせられる事ももちろんある。
私が元彼と別れたのは二年前だ。
二年間同棲をしていて、喧嘩だってそれなりにしてきたのに、大きな喧嘩をした日、彼はそのまま家を出た。
彼の私物もそのまんま。
三回連絡をしてみたけど、連絡は付かなくて、私はもうダメなんだと、そう判断したはずだったんだ。
「葵、俺が言うのもおかしな話だけど、ごめんな」
「なんでです?」
「告ったりなんかして」
「佐々木さん、私ね、変わりたくないわけじゃないんですよ。変われるなら変わりたいんです」
佐々木さんを安心させるための嘘でも、私を言い聞かせるための嘘でもない。
私は本当にそろそろ慶太を諦めないといけないと思い始めていた。
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