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「本当は前から知ってたんです、山口さんの事。他の店舗でもよく見かけたから」
今度は俺の心臓が跳ねる。
嬉しい。けど、やっぱ俺の顔?
ミーハーな一面見ちゃったしな。
「よく通る元気な声と、ぴんと伸びた後ろ姿が印象的で。」
後ろ姿?
顔を上げない貴女。
「この間初めて貴方の顔を見たんです。真剣に頭を下げる貴方が素敵で。こんな人が恋人だったら幸せになれるかなって。でもやっぱり怖くて逃げて」
貴女が俺を見る。
「バカみたい。同じ轍は踏まないとあんなに誓ったのに。二度目の恋は賢くいこうと思ってたのに。歳上なのに、恥ずかしい」
貴女の目が、唇が、震える肩が。
全てが俺に向かっている。
……カナさん。その続きは後で。
でないと、このまま押し倒しちまう。
タクシーが来た。
「ごめん、やっぱり今日は帰せないかも。ゆっくり聞かせてくださいね」
傘を少し傾けてそっと額にキスをする。
びくんと震えて下を向く花菜。
彼女を車に乗せ、すぐに自分も乗り込んで。
もう、逃がさないよ。
今夜は。
いや、今夜から。
心に貯まった悲しみを、俺に聞かせて。
全部受け止めるから。
全て出し切ったその後は。
改めて俺に恋して。
貴女しか見えない俺に。
貴女の二度目の恋は俺に下さい。
でも三度目はあげない。
いつまでも俺だけ。
俺だけに恋して。
完
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