2.道のりは辛く

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アパート、駅から近いな。 ファミレスからここまで終始無言。 急ぎすぎたか?だけど時間がない。 会えるのは後二日。 車を降りようとする彼女の右腕を掴む。 いい加減叩かれるって。 「明日も顔出すけど、話ができるほど時間が取れない」 そう伝えながら背広の内ポケットから携帯を出す。 「電話番号教えて下さい」 沈黙。 電車が三本くらい行き交った。 彼女の口から番号が紡がれる。 そのまま打ち込み、かける。 音は鳴らない。携帯からは番号違いのメッセージ。 「俺が怖いですか?」 腕を引き寄せ彼女の耳元で囁く。 彼女の震えが伝わってくる。 ダメだ。 解っているのに抑えが効かない。 これじゃ脅し。 諦めたように小さく呟く。 「強引ね」 改めて番号が伝えられる。 そっけない電子音が流れた。 「着拒しないで。仕事中は出なくていいから」 耳に唇が触れるくらいのところでお願いをする。 「好きです。本気です」 彼女の体が跳ねる。 「返事聞かせて欲しいです」 手を離す。名残惜しいけど。 勢いよく車のドアが閉められ、階段を駆け上がり。 彼女は部屋の中に消えていった。 一度も振り返らなかった。 暫く部屋のドアを見つめ、会社に向かった。
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