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「ブブブブ…」
ケータイのバイブが鳴った。侑弥からだ。
さっそく開くと、、、
件名:そっちどう?
本文:封筒届いてる?
まさか、、ふたりとも受かった…!?
届いた!とすぐに返信する。
驚きが隠せなかった。
とにかく家族に知らせると、母親は夕食を赤飯に変更してくれた。それは侑弥も同じだったと、後で彼から聞いた。
☆
僕は、自分が嫌いだ。
勝手に挫折して、勝手に夢を変えた。目標を変えた。
でも、やっぱり後悔している。小学校の頃から続けてきた体操をやめた。そして、アイドルの事務所に入った。していることといえば、雑誌のモデルとアクロバット、歌、そして苦手なダンス。
ダンスも歌も嫌いだ。それなのにやらなきゃいけないのが気に食わない。もともとモデルをやりたいと思って入ったのに。
だから、僕はいつもだれかに当たってなきゃ気が済まない。大体は、大元を作った姉が対象だ。
けれど、もう1人、いつも当たっている奴がいる。
―――五十嵐侑弥。あっちがたった1ヶ月早く入っただけなのに、いつも先輩風を吹かせてる奴。3つも年下なのに、何かとうるさい。タメ語なのも気に食わない。だから、何かと矛先をあやつに向ける。
そういうことをしているから、僕は自分が嫌いだ。
☆
デビューの夢は突如ついえた。
2年間やっていたグループから外された。
その直後、そのグループはデビューした。
研究生仲間からはさんざん慰められたが、当然気が晴れるはずがない。
やめようとした時、始めて組んだ昔のシンメが言った。
「もう少しこの世界にすがってみろよ」
せめて高校に入るまで頑張ってみよう。
そう思ったーー。
☆
僕の父親の職業はアイドルだ。恥ずかしいし、人に聞かれると弱い。
小さい頃は『いろいろやってるひと』とか、『よくわからない』と答えればそれで済んでいたが、さすがに小学生にもなるとそうはいかない。
『橋地』という名字が珍しすぎて、名前だけで親が知られてしまうからだ。
行く先々で『橋地の息子』と言われる。それほどに父親は有名であり、コンプレックスの元だった。
そんな周りの空気が変わったのは5年前のことだ。
父親のグループ『SEOS』が、解散した。
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