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ホームはうちの学校の生徒たちでにぎわっていた。
みんなスマホをいじったり、友達同士で話をしたりしていて、俺も手持無沙汰にスマホを取り出す。
その時、ざわめきに混じってかすかな歌が聞こえた。
鼻歌だった。
顔をあげれば、少し先にいる女子の口元が動いている。
肩までの髪の長さの、華奢な体つきの彼女は、制服から同じ学校の生徒だとわかった。
でも見知った顔でもなく、俺はすぐ視線を外し、ゲームアプリを起動させた。
中学の頃はサッカー部に所属していたが、中2でやめて以来、時間をつぶすのはこうしたスマホゲームに頼るようになった。
楽しいというわけでもなく、事務的に指を動かしているうちに電車が到着し、顔をあげる。
この電車に乗っても、まだ早く着きすぎだな……。
慣れないバイト先で時間をつぶしたくなくて、俺は電車を見送り、ベンチに座ろうとあたりを見渡した。
その時、気付いた。
自分以外ホームに残った人はいないと思ったのに、鼻歌の女子がそこにいる。
彼女はさっきと同じ場所で、何事もなかったように鼻歌を歌い続けていた。
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