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線路の向こう側を見ているものの、どこを見ているふうでもない。
自分のことを棚に上げて、なんで電車に乗らなかったんだと訝しんだ。
というか、ずっと鼻歌を歌っていたんだろうか。
変な奴だと思いつつ、不思議な女子に関わるつもりなんて毛頭ない。
俺はすぐに目を外し、ベンチに座ってゲームを再開する。
やがて学生たちのざわめきが耳に届き、さらに時間が経てば、電車が到着するアナウンスが流れた。
スマホから目をあげると、視界の端にさっきの女子が映りこむ。
停止線のすぐ近くで、彼女は雑音にかき消されながら、やはり鼻歌を歌い続けていた。
変なやつ、と心の中で呆れ、入ってきた電車に乗る。
電車に揺られ、バイト先のある駅で降りると、すぐとなりの車両から、あの女子が降りたのが見えた。
ここが最寄駅だったんだと思いつつ、ちらりと彼女の横顔を見たのは、まだ歌っているのか気になったからだ。
彼女はもう歌は歌っておらず、かわりに唇を結んでまっすぐ西口へ向かって歩いていった。
そうしていれば普通なのに、と思いつつ、俺はバイト先のある東口へと足を進めた。
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