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旅立ち
「…ねぇ…私は幸せだったよ…」
そう弱々しく呟く君。
最期にそう呟いて君は
父親に見守られながら旅立っていった。
そんな君の旅立ちに
居合わせられなかった俺を
君はどう思っていたのだろうか。
…それだけが心残りなんだ…
…君の眼に映っていた俺は…
…どんな風に見えていたんだろうな…
……………美々…………………
今でも忘れる事はできない。
君との出会いは突然だった。
小学校2年生の時、
父親が君を家に連れてきた。
「この子は今日からうちの家族になるから。」
そう言った父親の言葉を理解できず
ただただ僕は、君を見ていた。
すると君は嬉しそうに僕に飛びついて来た。
思わず尻餅をついてしまう。
僕よりも身体の大きな君が
僕に飛びついて来たのだから。
感情を表に出して君は喜んでいた。
そんな君の幸せそうな顔を見てると
僕も幸せな気持ちになっていたんだ。
君と僕は次第に成長して、
僕の身長が君に追い付いた。
君はそれを嬉しそうに喜んで
相変わらず僕に飛びついて来た。
そんな君の頭を撫でながら僕と君は笑っていた。
君とよく出掛けたのは地元の海だった。
そこで2人して追いかけっこをして
楽しく遊んだのを今でも覚えている。
君は夕陽を見るのが好きだった。
そんな君の横顔を見るのが、僕の楽しみでもあった。
沈む夕陽を見てから、いつも家に帰っていた。
中学に入ってから部活が始まり
毎日帰る時間が遅くなり
君と一緒に海に行く機会が少なくなった。
それでも君は僕が帰ってくるのを待っていて
必ず「おかえり!今日もお疲れ様!」と言う。
そんな君の頭を撫でる。
君は幸せそうな顔で笑う。
その代わり、部活が休みの日は
相変わらず2人で海へ出掛ける。
学校であった話などをすると
君は相槌を打ったりして聞いてくれた。
嬉しい事や悲しい事は
いつも2人で分け合っていた。
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