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「あのお姫様、来週正式に婚約発表だとよ。さすがの若宮でもオトせなかったか」
「初めから相手にされるはずなかったんだよ。なんたって向こうは世が世なら大名のお姫様。俺たち成り上がり者とは格が違うんだ」
悪友らは、彼女をオトせなかったことを「仕方ないさ、相手がマズすぎる」と苦笑いした。
自覚した恋は静かに心の中で燻っている。
悪友らと酒を煽るが味がしない。
悪友らの持ってきた酒は見事に喉をそのまま通過した。
「なんだよ、辛気くさいな。よし!これから街に遊びに繰り出そうぜ。なっ?」
「そうそう、所詮、高嶺の花だったんだしさ。手を出してみろ。それこそこの世界で睨まれたら潰されるだけだってわかってただろ?これで良かったんだって」
「………」
住む世界が違うと、そのくらいわかってた。
一度だけ髪に触れた。
その柔らかさを指先が憶えてる。
彼女は彼のモノになる。
最初からわかっていたのに、それで納得してたはずだったのに、胸が痛くて堪らない。
「なーに、湿気た面してんだよ、仕方ねえな。ほら!そんなに欲しけりゃ奪いに行ってきな!おまえの骨ぐらい拾ってやる!」
背中をバンと叩かれた。
「おまえがあのお姫様に本気だってことぐらいわかってるさ。行くんだろ!?」
一番の悪友が笑って自分の車のキーを放って寄越した。
「ちょっと早いが、おまえの結婚祝いだ。やる!行ってこい!!」
誰かを傷つけてもいい、誰にも渡したくないなら。
指を咥えて後で後悔するくらいなら当たって砕けてもいい。
キーを片手で受け取ると、
「サンキュ!!」
そのまま駆け出した。
車を飛ばして郊外へと向かう。
ただひたすらに夜の道を走った。
開かれた門の間から、木々に囲まれた灯りのついた屋敷を見上げる。
車止めの前にはパーティー客の高級車がずらりと並んでいた。
すでにパーティーは始まっている。
「こちらへ」
招待状を提示すると奥へと案内された。
正式には来週、ふたりの婚約が発表される。
今夜は婚約者を友人に紹介するパーティーだ。
招待状が届いた時、身を裂かれるような痛みを覚えた。
パーティー会場では彼女の幼馴染みの婚約者がワイン片手に友人たちと談笑していた。
仲間たちに囲まれ、人のいい穏やかな笑みを浮かべている。
「……いない」
彼女がいない……
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