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周りをぐるりと見渡し、それでも姿を見つけられない。
彼女はどこにいる?
二階への階段を駆け上がり奥へと急ぐ。
彼女の部屋は庭が見える一番奥の部屋だろう。そう思い走っていくと当たりだった。
重厚な扉が少し開いていて、大鏡の前の椅子に座っていた。
俺は周りに誰もいないのを確認して、部屋に入ると後ろ手に扉を閉めた。
鏡に映っていた彼女は鏡越しに俺に気づくと立ち上がって振り向いた。
震える声で、「…ど、うして」と呟く。
彼女は静かに涙をこぼして泣いていた。
濡れた頬を隠しもせず、俺を揺れる瞳で見つめ返した。
「拐いに来たんだ」
拐ったらどういう騒ぎになるかそれくらいバカな俺にでもわかってる。
それでも引き返すつもりはない。
俺にとって最初で最後の本気の恋だから。
「だめよ、あなたが部屋にいると誰かに知れて捕まったらどんな目に遭わせられるか」
「俺を心配してくれるのか」
「そ、……それは、」
慌てて涙を拭い瞳を反らす彼女の手首をつかんで引き寄せ、華奢な体を両手で包み込んだ。
彼女の中に俺を心配する心があることが嬉しかった。
彼女のためならすべてを捨ててもいい。
家も、地位も、
この女ひとりが俺のものになるのなら。
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