許されぬ恋

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涙を浮かべて見上げるその頬を拭い、はらはらと溢れる涙にくちづけた。 死ぬほど焦がれてる。 彼女が手に入らないのなら、ここで死んでもいいほどに。 「他の男のものになんかさせない。強引にでも拐ってく」 「そんなことをしたら、あなたが父に殺されるわ」 「すべて承知の上だ」 その綺麗な瞳に映るのは拐う覚悟をした俺の顔だった。 どんな女もいらない。 たったひとりだけが俺のそばにいてくれるだけでいい。 「…そんなのダメよ。あなたまで巻き込んでしまったらわたしは」 「俺が巻き込んだんだ。ゲームのつもりだったのに本気になった。何もせずこのまま諦めることはできない」 巻き込んだのは俺だ。 俺と出会わなかったら平穏で優しい幼馴染みの王子さま然としたアイツと幸せに暮らしたはずだ。 出会わなければ苦しい選択を強いられることもなかったろう。 親を捨てさせる、家も、何不自由ない暮らしも捨てさせてしまう。 それでも。 欲しかった。目の前の愛しい女が。 俺も何もかも失うことになっても、それでも離したくない。 後悔はしない。そしてさせない。 「俺と一緒に死ぬ覚悟だけあればいい。それだけだ」 頬から滑らせた指先で顎をすくい、その柔らかなくちびるにくちづける。 くちびるを割り舌を絡めて深く心を交わした。 「その覚悟だけあればそれで十分だ」 たとえ拐ってここを抜けられても追手はくるだろう。 最悪命を落とすことになる。 「覚悟は?」 「あるわ。あなたと一緒に死ぬ覚悟ならいつでも」 「そりゃ、上等!!」 ないと俯く女なら本気になったりしなかった。そんな女なら掃いて棄てるほどいる。 真っ直ぐに見返すその目に力が入った。 それでこそ、俺がホレた女だ。 華奢な手首をつかんで走り出す。 重厚な扉を開け放ち廊下へと出た。 「―――お嬢様」 低く静かな声が背後から掛けられた。 振り返ると初老の毅然とした眼差しの執事が立っていた。
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