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ある夜、兄貴の代わりにパーティーへと出掛けると、偶然にも再会を果たした。
彼女はレモン色のドレスに身を包み、これまた見事に人目を引いた。
幼なじみの婚約者と踊る。その可憐な笑みで、その透き通った大きな瞳が堪らなく魅力的だった。
「あのバカ、また行きやがったぞ!」
「断られるに決まってるのに、あいつ!」
悪友たちの声が背に突き刺さり、周りの視線も痛い。それでも前に進む。
「踊っていただけますか?」
「ふふ。ええ、喜んで」
花の笑み。
髪飾りが揺れる。
今夜着てきたのは、彼女から届いたものだ。
「お似合いです。押し付けがましいと思ったのですが、着てくださって嬉しいです」
極上の笑みが溢れる。
気取らずに笑みを浮かべてくれる。
とてもいい女だと思った。
手を伸ばせば届くようなそんな錯覚さえ覚えた。
マナー違反だと思っても。曲が変わっても彼女と踊った。
そんな楽しい時を過ごしていた時、
突然、
音を立てて開かれたドアにみんなが一斉に振り返った。
真っ青な顔をした従者がひとり。
「……どうした一ノ瀬?」
「若宮さま…至急、邸にお戻りください」
何が、あった?
一ノ瀬がこんなにも取り乱すほどのことが。
急に喉が乾いていく。
「成宮さまが―――お亡くなりになられました」
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