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「じゃあ、行ってきます」
これまでと同じ時間に、キミは会社へと向かう。
もう少ししたら、ボクも家を出る時間だ。
「後片付け、ごめんね。流し台に置いといてくれるだけで良いからね」
キミは申し訳なさそうに微笑んでから、小走りで出て行った。
ボクは玄関のドアを閉め、テーブルに並んだ大小様々な皿を、食器棚へと片付ける。
ストッカーから食パンを一枚取り出し、牛乳と一緒に喉の奥へと流し込んだ。
キミは何も変わらない。
あの頃と同じように、ボクの為に朝食を作り、会社へ向かい、帰宅後は、ボクの作った夕飯を食べ、一緒に風呂へ入り一緒に眠る。
あの頃と違うのは、キミが、自分の身に起きた事を知らない事だけだ。
キミはあの日、ボクとキミの記念日のお祝いの日、ほんの少し残業になり、予定の時間に遅れていて とても慌てていた。
ボクが予約しておいた店に向かって走りながら、ボクに電話をかけてきた。
「ごめん!今、向かってるからね!ごめんね!もう少し待ってて!」
ハアハアと荒い息遣いで、キミは叫ぶように電話口で言った。
「大丈夫だよ、慌てないで、ゆっくり向かって。危ないから」
ボクがそう言って、キミは「ありがとう」と言おうとしたのだろう。
「あり」
耳元でキミの声がそこまで聞こえた時。
キュキィーーーーーーーーッ!!
という甲高い音が電話の向こうに鳴り響き、同時に、
ガンッ!
という音が少し遠くからして、すぐ後にとても近い場所から、
ゴトッ
という音がした。
そしてそのまま、電話が切れてしまった。
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