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 窓の外は雪だった。割れた窓からは寒風が吹き込んできている。  少し前まで鳴り響いていたサイレンの音は聞こえなくなり、代わりに怒号が断続的に響いている。  本格的な手入れが始まったのだ。  まだ、見つかるわけにはいかない、と思った。  手に握った木製のグリップの古臭いリボルバーに目をやった。  ついで足元に倒れている脂っぽい長い髪の毛の男を見た。  だらしなく地面に伸びている。  少し前までの気取った雰囲気の名残はない。  そこにいるのはただ惨めな社会の落伍者だ。  同情はなかった。この男は落ちるべくして落ちた。僕は、この男の側にはいかなかった。ただそれだけの違いだ。ただそれだけの違いでこの男は落伍者になった。  僕は、地を這う虫になった。  けれど、うかうかしていては、僕もこの男と同じになってしまう。この光景はさすがにまずい。僕は暴行の現行犯だ。ここで捕まるわけにはいかない。  外へ続く扉を開けた。  鈍色の空に灰色の雪が舞っている。  ゴミ山に積もった雪が薄汚く変色している。  その向こうには、ネオンを灯し始めた中央市街が見える。  別世界だ。  遠い昔に共産主義の体制は倒れたのに。いや、それよりずっと前に人間は平等になったのに、それでも格差は依然として存在する。  だからどうしたという事はない。ただ、僕はそういう仕組みの中で死んだ同年代の男のことを思った。  せめて掘り起こしてやりたかった。死者の眠りを妨げたとしても、墓を選ぶことは許されるだろう。  それくらいの付き合いはしているつもりだ。  錆びた階段を降りながら、僕はほんの二月前の朝を思い出していた。
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